俺の名前はレンチ。
スコアネームは「6RE」。
「RE」は「Wrench」の頭文字で、たいていの家庭の道具箱には入っているだろう工具が元ネタだ。
こんな自己紹介をしているから、
「ひょっとしてそれなりのランカー?」
などと思われるかもしれない。
残念。
俺の名前はランキングになんか残らない。
そうだな…しいて言えば。
「TODAY’sランキング」
があるゲームになら、せいぜいそれの1位にはまれになれる事もある程度だ。
…気づいたかい?
その通り、笑ってくれ。「その日最初に遊べば誰だって取れる1位」だ。
ま、その程度の腕しか持っていない俺はいろんなゲームに手を付けてはランク最下位にも入れないまま投げ出してしまうという、C級以下のゲーマーだ。
仲間には凄いのがいるのだが…。
◇
ある休日の昼頃の話だ。
家族でも遊びに来れるようなゲーセン…、いや、この場合はアミューズメント施設と言ったほうがいいのかもしれない。
まあそんな事はどうでもいが、とにかくそのゲーセンに行ってみると、小学生低学年くらいの男の子が一生懸命、アニメが元ネタのロボット対戦アクションゲームをプレイしている姿をみかけた。
おぼつかないスティックさばきで、使っているのはアニメの主人公が駆る機体。
可愛いねぇ。やっぱり華やかなヒーローが好きなのかい?
(おっとそこはステップで回避しちゃいけない。ほら言わんこっちゃない)
思わずイラナイおせっかいを口にしてしまいそうになるのを、ぐっとこらえながら眺める。
そういや駐車場に、
「××の会ご一行様」
とかなんとか書いてあったバスが停まっていたのを思い出す。
ご両親はボウリングかカラオケの最中で、それを待ってる間に遊んでいるように言われ、お小遣いをもらったのだろう。
ゲーム筐体には100円硬貨が何枚か積まれていた。
懐かしい。
俺にも昔、そんな頃、そんな時があった。
つい、自分と少年が重なって見えた。
少年よ頑張れ。
そんな心境で眺めていること数分。
いつの間に現れたのやら、俺の更に後ろで少年をギャラリーしている二人組みがいる事に気づいた。
何かをボソボソ喋っているようだが、なんせ騒がしいゲーセン内。聞き取れやしない。
まあ、おしゃべりの内容になんか興味無い。一緒に少年を応援しようじゃないか。
ところが。
奴らは応援をするつもりなんかハナから無かったらしい。
ほんの少しプレイを見ると、二人組みは少年の台の反対側へ回った。
(…まさかそんな事は無いだろ…)
一瞬嫌な想像をしてしまったが、こんな少年相手に二人がかりなんて恥知らずな真似はしないだろう。
ところが、そう思ったのも束の間。少年の画面に現れる警告音と、表示される敵機襲来という文字。
瞬間、カチンと来た。
(プレイヤーを見てから乱入しやがった。勝てる相手だから潰すってかい!)
現れたロボットは…クソッ、名前を言うのも腹立だしいコンビだ!
完全に少年をナメていやがる。いるもんなんだね、こういう奴らって。
◇
俺が小学生の頃。
俺は親の買い物の間に数枚の100円をもらって、デパート屋上や階段の踊り場でゲームをしていたもんだ。
あの頃はシューティングゲームの全盛期だった。
一緒に買い物に来ていた幼馴染の友達や、知らないお兄さん、時には奥さんを待つおじさん。
皆でひとつの筐体に張り付いて、腕自慢に互いのプレイを見せつけあい、時には攻略法を相談しあい、コンテニューを別な人が交代でプレイする、なんていう事もざらだった。
誰もが詰まる難関を抜ける英雄が現れでもしたら、仲間だろうが見ず知らずの他人だろうが関係無く歓声を上げ手をとりあい、喜びを分かち合った。
あの場にいたのは、誰もが腕を競い合うライバルたちで、敵同士だったが。
だが同時に。
あの場にいた誰もは、激難ゲームという1つの強大な敵に共に挑むかけがえの無い仲間だった。
そんな思い出が、俺にはある。
「同じ筐体に張り付く者は、皆仲間」
そんな思いが、俺にはある。
だが今。
俺の目の前で行われているのは、初心者イジメ。
この場には、あの場にあった温かみが無い。
このモニターの裏にいる奴どもは、あの場にいた良き敵たちとは明らかに違う。
奴らはゲームを楽しんでいるのではない。
勝てない相手は避け、勝てる相手のみを選んで、潰して回る事を楽しんでいるのだ。
腸が煮えくり返るような思いに駆られ、耐え切れなくなった俺は一時その場を離れた。
◇
暫くして戻ってみると、予想通り少年はボロ負けになっている。
大切な100円硬貨も使いきってしまったようだった。
しょんぼりして席を立つ少年。
席を立った少年は、未練があるのか画面を寂しそうに見つめている。
我慢ができなくなった。
いや、我慢など先の乱入開始当初からとうにできていない。
俺は少年の見てる目の前で、わざとらしくドッカと席に座り、かつ大袈裟に大きな音を立てて筐体に100円を投入した。
俺が選んだ機体は、少年がそれまで使っていた主人公機に比べると少しグレードの下がる中堅な機体。
モニターの向こうから何か声が聞こえた気がしたが、怒りが強いせいか内容は聞き取れなかった。
恐らくロボットが変わった事に何か反応を示しているのだろう。
俺が乱入した事に気づかず、少年が使用キャラを替えたのだとでも思い、何かこちらの堪に触る事をぶつくさ言っているに違いない。
だから、逆に聞き取れなくてよかったもんだ。
今は奴らの罵倒の内容などより、後ろにいる少年の心の事で頭が一杯だった。
◇
数分経った俺は、それはもう見事なボロ負けをしていた。
我ながら見事なやられっぷりだった。
振り返ると、少年は相変わらず画面を見つめていた。
(…何か感じる所があったかい?)
俺は心の中で呼びかけてみる。
(兄ちゃんですら負けちまうような相手だったんだ。君じゃ歯が立たなくても仕方なかったんだよ。)
俺と目が合うと、少年は気まずそうに去っていった。
(こりゃ処方を間違ったか?)
ちょいと気にかかったが、その心配は絶対に無い。
なぜなら、俺は見たからだ。
さっきよりはマシな目になっていた少年の目を。
(上手くなるんだぞ。それと、君は良いゲーマーになれよ。)
俺は思い出す。
あれは89年。泡に囲まれて潰され続けた、あの日。
俺の背中に張り付いていた、あのお兄さんを…。
◇
ポンと叩かれる俺の左肩。振り向けばそこにいるのは俺の相棒。
さっき現場を離れた際に、携帯電話で呼び出しておいたのだ。
俺は相棒に、簡潔に状況を説明した。
「こいつらが相手だよ」
「ふ〜ん…」
相棒は俺の隣に座ると、慣れた手つきで100円を投入した。
俺もそれにあわせて100円を投入し、相棒とチームを組んで向かいの奴らに乱入する。
筐体の向こうからは、わざとらしく大きな声。
今度ははっきり聞き取れた。
「懲りないね〜。」
(…言ってろ)
本番はこれからだ。
相方が選んだのは主人公機。
少年と同じ、主人公機。
(…って、おいおい相変わらずだな。そんなに高いロボットを買われたら、俺の選択支が絞られちまう)
心の中で、くつくつ、と笑う。
仕方ない、愛用の中堅機は諦めとくさ。低コストの雑魚役ロボットで我慢しとくぜ。
ゲームが開幕する。
「主人公キター」
「今度はお二人様ー」
全く。
重ね重ねだが。
本ッ当にいるんだねこういう奴ら。
このヤジが数分後にはきっと、「ビームうぜぇ」とか「恥知らずの卑怯な主人公使い」とかに変わるんだろう。
容易に予想できた。
…まあ、そう言いたくなる気持ちだが、少しは判らんでもない。
何せ。
俺がランクに残れないのは。
近郊のゲーセンの全てのゲームのランキングのスコアネームを、このとんでもない相棒が1色に染め上げているおかげなのだから。
今度の戦いだって、主人公機の横で戦う低コスト量産機の事など相手は覚ようともしないだろう。
そんな事を考えながら。
俺は低コスト量産機を、先の中堅機より、機敏に動かし始めた。
◆了◆
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この文は、過去に私が運営していた現在閉鎖中のホームページにて
2007年7月31日に公開したものに加筆・修正を加えたものです。
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