神狐

 一年に一回、普段は人が立ち入らない森に人々が村でとれた作物や米などを持って訪れる。その森には、祠があった。村を守ってくれているという、狐の守り神が奉られている。

 人々は大きな赤い鳥居をくぐって、祠に近づく。人が入ることができない小さな祠の入口は、何枚も御札がはられ、閉ざされている。入ることが許されているところまで行き、作物をささげ、今年の村の平和と豊作を祈って人々は村に帰っていった。

 それは毎年の行事。災いから守ってくれた御礼と新しい年の豊作祈願。さらにその土地には金と銀の神様の存在が言い伝えられていた。

「銀、来たよ」

 ふわり、と音もなく鳥居の柱に着地した一匹の狐。

「……そうだな」

 片方の柱にも同じようにもう一匹、狐が姿をみせた。金と銀の毛並み、神々しい気配、漂う妖気。それらがただの狐じゃない事を示していた。

「去年は豊作だったようで、いつもより多いよ」

 地に降りたときにはもう獣の姿じゃなく、人間の子供に狐の耳と尾がついている姿。そして、瞳は血のように赤い。

 彼らはこの土地の守り神。人々は彼らを神の力を持つ狐、神狐(かみこ)様と呼ぶ。

「こんなにもらったら、来年はがんばらないとね」

「それが俺たちの役目だろ?」

 彼らは人々を守るために存在する。しかし、彼らが力を使うときは、何かと引き換えにという約束事があった。食べ物、金、着物、髪飾り……それ相応のものと引き換えに、神の力を使う。

「でも、人間ってなんで自分から争いごとを作っちゃうんだろうね」

 何千年と生きる彼らは、人が起こす戦で人が無残に散っていく姿を何度も何度も見ていた。戦国時代はとくに酷く、我こそが土地を支配するのだと、あちこちで戦が起こっていた。上にのぼっては蹴落とし、蹴落とされ、自らの力になる人を取り込み、従わない人は切り落とす。

「それが人間なんだろ」

 恨み、妬み、怒りという感情にふりまわされ、快楽に溺れ、権力や富という欲望に目がくらむ。そんな醜い争いをしているかと思えば、一方では愛や友情のために誰かの一声で結束し、それらを貫こうとする強さを見せる。

 善にも悪にもなる厄介なもの。

「……人は全知全能ではない」

「うん、間違いもするし、道をそれることもある」

「だからこそ俺達がいる」

「間違った道に人が進むものなら、俺達が正しい道を示してあげないとね」

 ただし、彼らは道を示すだけ。選択肢を用意してあげるだけ。あとは人に判断をゆだねる。その結果、闇に囚われることになっても、もう助けることはしない。

「それが神様なんだよ」

 村人が去った方角を向いて言った。

「神は人を守るためにいるのではない。この世を保つためにいるんだ」

「勘違いしてる奴がいるよね」

「たしかに、人を守るのは俺たちの役目。それがこの世の安泰につながるから。だが、人が世を乱れさせるようなことがあれば、俺たちは人を罰せなければならない」

 わかっているだろう? と銀の神狐が聞く。もちろんと答えた。

 あたりの木々がざわめく。日が傾きだしていた。

「そろそろ帰るか、黄金」

 金の神狐は笑顔で頷く。彼らは再び狐の姿となり、鳥居の上に立った。白い煙とともに、その姿は跡形もなく消える。

 祠にささげられた作物も、全て一緒になくなっていた。

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