Another fantasy 第3話

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 民家の間の広場にその古井戸はあった。

 意外とその井戸は大きく、4人一気に下りて行っても余裕があるくらい幅が広い。

 今回の依頼は、この井戸から夜な夜な聞こえるという叫び声や呻き声の原因を解明し、原因がモンスターであるならそいつを退治してきてほしい、というものだ。

 まず僕たちは、恐る恐る井戸の中を覗いて見ることにした。

 しかし覗いて見たはいいものの中は真っ暗。

 何も見えない。

「な〜んも見えねぇな。」

 リクが困ったように呟く。

 僕らもうんと頷く他なかった。

「そんじゃ、ま、下りてみっか。」

 と、リクは腰に止めていた楔付きロープと、ポーチのような小さなかばんからトンカチを取り出す。

「え、もう行くの?!」

 僕が顔を引き攣らせながら言うと、リクは冷たい目で僕を見た。

「たりめーだ。俺たちゃ捜査に来たんだかんな?それなのに井戸の中覗いて終わりってわけにゃいかねーだろ?これは冒険ごっこじゃなく仕事なんだ。」

 リクはそう言いながら地面に楔を打ち込み、ロープがしっかりと固定されたのを確認してからロープの先を井戸に投げ入れる。

「ま、先に俺が行ってみっから。おめーらはそこで待っとけ。な〜に、ちょっと見たらすぐ帰ってくる。」

「・・・一人で大丈夫か?」

 そんなリクにブレイズが心配そうに声をかける。

「あん?俺を誰だと思ってんだ。逃げ足ぴかいちリク様だぜ?大丈夫だって。」

「でも・・・。」

 今度はシーがリクを引き止めようとした。

「だぁら、大丈夫だっつってんだろ?まだ例の呻き声とやらも聞こえてねーし。それにロープだってちゃんと底までもってるかわかんねーんだから、ここは一人で行ったほうが行動しやすいってもんだ。」

 そう言うとリクはロープを掴み、ひらりと井戸に飛び込んだ。

 慌てて僕らが穴を覗き込むと、滑るように井戸の中を下りていくリクの姿が見える。

 しかし、その姿もすぐに暗闇へと飲まれ消えてしまった。

「行っちゃった・・・。」

 シーが心配そうな顔をして呟く。

 この井戸がどのくらいの深さかわからないけど、底が見えないということはそれなりに深いのだろう。

 リクの話によると夜になったらこの井戸から何者かの叫び声やうめき声のようなものが聞こえるって言うじゃないか。

 一体何がいるっていうんだろう?

 もしかしたらどこからか流れついた死体に魔力が蓄積して、ゾンビやスケルトンなんかのアンデッドモンスターに変化し、この井戸の底を彷徨っているんじゃなかろうか!

 僕がそんな恐ろしい想像を膨らましている時だった。

「ぬあああぁぁぁぁぁ!!」

 という叫び声。

 その声は

「リク?!」

 僕ら3人は同時に顔を見合わせた。

 シーもブレイズも、顔が青い。

 きっと僕も相当悪い顔色をしているだろう。

「リク!!聞こえるか?!」

 ブレイズが瞬時に身を翻し、井戸の中へ向かって叫ぶ。

 しかし井戸の中にブレイズの声が反響していくのが聞こえるだけで返事は聞こえない。

 さっきの悲鳴が聞こえたっきり、井戸の中はまたさっきのようにしんと静まり返っていた。

「・・・行ってくる。」

 一体どうすればいいのかと僕がパニックに陥りかけているとき、ぼそりとブレイズが言った。

「え・・・?」

 僕、そしてシーがブレイズの顔を見上げる。

「俺が行くしかないだろ、一番の年長だからな。それにきっと、お前たちより俺の方が身軽だ。」

 僕らを見下ろしながら彼は言った。

「でも、また何かあったら?」

「そんときゃ、二人で助けに来てくれ。」

 シーが聞くと、ブレイズはにかっと笑みを見せ、井戸へと飛び込む。

「ブレイズ!」

「大丈夫だって!もしかしたら穴に足突っ込んだだけかもしれねーし!ちょっと見に行ってくるだけだって・・・!」

 だって・・・だって・・・とブレイズの声が反響し、彼の姿は井戸の中へと消えてしまった。

 顔を見合わせる僕とシー。

 シーは目に涙を浮かべ、口もへの字。

 まさかいきなりこんなことになるなんて。

 ブレイズが言ったみたいに穴に足が嵌まったくらいで済んでいればいいんだけど。

 僕はどんどん悪いことを想像してしまい、慌てて首を振った。

 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 二人とも強いんだから。

 いや、リクはどうなのか知らないけど、ブレイズは大会で優勝するくらい強いんだから、きっとすぐに二人で戻ってくるよ。

 シーにも今僕が考えたことを伝え、どうにか宥める。

 するとシーはこくりと頷き、何とか涙は止まった。

 ただ、シーの口がへの字なのはまだ変わらない。

 やっぱりこういう顔を見るとシーも子供なんだなって思う。

 もし二人が帰ってこなかったら、僕が彼を守ってあげないといけない。

 いや、たぶん井戸の外までリクの悲鳴の現況は出てこないとは思うけど、万が一ってことだってある。

 僕は何が起こってもいいように身構えた。

 

 しかし。

 いくら待っても二人が帰ってくる様子はなかった。

 物音すらしない。

 不安げに僕を見上げるシーの目を見ることができなかった。

 これは本格的に危ないんじゃないか?

 今度は僕が穴の中に行かないといけないんじゃないか?

 でもブレイズでも適わないような相手にひ弱な僕みたいなのが対抗できるのか?

 いろんな考えが僕の頭の中を回る。

(だぁー!!ウジウジウジウジウジウジウジウジ・・・いい加減にしなさいよぉっ!)

「わぁぁっ?!」

「ふえぇっ?!」

 いきなり頭の中に響いた言葉に驚いて思わず声を上げてしまう僕。

 そしてそんな僕に驚くシー。

 そういえばシーには僕の中に天使や悪魔がいるって話はしてなかったっけ。

「あのね、シー。僕の中には・・・」

「天使と悪魔がいるんでしょ?ブレイズとキトンから聞いた。」

 僕が言う前にシーはすらすらと言ってのけた。

 きっと僕がシーに会う前にブレイズたちが話しておいてくれたんだな・・・。

「う、うん、そうなんだよ。それで、今急に話しかけてきたもんだからつい声が出ちゃってさ。」

「ふ〜ん。」

 僕が言うとシーは無表情でそう言った。

 ・・・シーは天使と悪魔がいるなんてことを信じていないから表情がないのだろうか、それとも今のことで不安を忘れられたから一時的に表情がないのだろうか。

 わからない。

(ちょっと!無視すんじゃない!)

 おっと、返事返すの忘れてた。

(まぁ、まぁ・・・そう怒らずに。)

 いらいらと怒鳴るバリアを慰めるキルアの声が間に入る。

(ちょっとケイ!ウジウジしてないで、早く井戸の中入りなさいよ!考えてたって仕方ないでしょ!)

(そんなこと言ったって・・・。中で何が待ってるか・・・)

(うるっさい!行くったら行く!この中には何か不穏な魔力を感じる!)

(いや、それじゃ、余計行きたくな・・・)

(行くの!!)

 僕は話を聞かないわがまま天使の言い分に思わず溜息をついた。

「どしたの?」

 不思議そうに僕を見ながらシーが聞いた。

「あ、いや、天使がいろいろとうるさいんだ。」

(うるさいって何よ!)

「うへ・・・。」

 間髪入れず天使の声が頭の中に響く。

「あぁ、例の天使ね。」

 そんな僕の反応を見てふんふんと頷くシー。

 一体シーはブレイズ達からどれくらい詳しく話を聞いたんだろう?

 もしかしたら天使がクイットにしたことから何から全部聞いているのかもしれない。

「それで・・・天使はなんて言ってるの?」

「えっと、早く行け!って言ってる。なんか不穏な魔力を感じるんだとさ。」

 僕がそう言うとシーは何も言わず軽く何度か頷いた。

 こういう仕草をしているところを見るとシーって急に子供っぽくなくなる。

 何というか一流の魔導師みたいな。

 まぁ、召喚術の腕は一流みたいだから、あながち間違いじゃないのかもしれないけど。

(ふん。ケイより、この子の方が物分かりがいいかもしれないね。)

 シーの様子を見ていると、バリアが鼻を鳴らすような音を立ててからそう言った。

 全くもって天使に有るまじき性格だ。

「よし、決めた!!」

 僕がもう一度溜息をつきそうになったところで不意にシーが声を上げた。

 僕は口から出かけた溜息を飲み込む。

「行こう!ケイ!冒険だ!」

「え・・・それ本気?」

 さっきまで口をへの字にしていたのが嘘のようだ。

 シーは元気を取り戻したように、強い光が宿った目で僕を見上げている。

 僕はまたその目を直視できない。

 この場から一番逃げたいと思っているのは僕のようだ。

 ただ逃げてもどうにもならない。

 逆にひどい結果が出ることは分かっていた。

「本気も本気!大本気!早く行こう!二人を助けにさ!」

 ぐっと両手で握りこぶしを作るシー。

 僕はちらりとシーの顔を見た。

 ばっちりと合う視線。

 もう後戻りはできなくなってしまった。

「じゃぁ、僕から先に行くから、後ろ頼むよ!ケイ!」

                                :

 じめじめした井戸の底に降り立った僕とシー。

 枯れ井戸のようだが、水分はまだあるようで、地面はじっとりと湿っていた。

 中は薄暗いので、周りに生き物の気配がしないことを確かめてから僕は小さな二つの光球を作り、それで辺りを照らしてみる。

 すると一本井戸の奥に続く道が見えた。

 元は水路だったようであまり広い道ではなかったけど、人一人が通るには十分のスペースがある。

 ここにリクとブレイズの姿が無いところを見ると、二人はきっとこの奥に進んで行ったんだ。

 一応僕は湿っている壁の部分も調べてみたが、隠し通路のようなものはない様子。

 といっても薄暗いし、仕掛けについても一般的なことしか知らないから隠し通路や仕掛けが無いというのは100%確実とはいえない。

 でもまぁ、井戸に仕掛けなんてものは作らないだろう。

 僕はそう考えて、通路の方を進んでみることにした。

 光球で前方を照らし、後ろにシーを連れて進む。

「変な匂いするね、ここ。」

「カビか何かかな?」

 シーが小さな声でたまに話しかけてくるのに返事を返しながらゆっくりと進む。

 僕の後ろを歩くシーは不安げに僕のローブの裾をぎゅっと掴んでいた。

 後ろから何か来たときはどうしようかと思いながら僕は前を見つめる。

 だが、そんな僕の心配は杞憂に終わり、しばらく行くと少し開けた場所に出た。

「ん?なんか変だな。」

 開けた場所全体を照らしてみて、僕は首を傾げた。

 目の前には3つの分かれ道があり、その内の一つ、一番右側の道は明らかに井戸水が通っていたのが分かる水で削れたような壁が濡れた狭い道があるのだが、あと二つの道は、地面は濡れて泥が溜まっていたけれど、道の壁の上の方が乾いていて、どうも後から作られたように見えたんだ。

「変?」

 ローブの裾を掴んだまま僕の横に立つシーが聞いてくる。

「うん・・・。」

 シーには難しい事かと思い、僕は詳細を伝えず頷くだけにする。

「ふ〜ん。」

 シーは何が変なのか聞くことはせずに、視線を前に戻した。

 道以外には隅に大きな泥の塊のようなものが見えただけで特に変わったものはない。

 動くものも無く、生き物の気配すらしなかった。

 どうやらここにもリクとブレイズはいないようなので、3つの道のうちどれかを選んでその先に進まないといけない。

 

 とりあえず僕は一番左端の道へと近づく。

 ずぷずぷと足に泥が絡まるのを鬱陶しく思いながら道々の奥を覗き込んでみた。

 やはり暗くて先が見えない。

「ねぇ、さっきまで地面ってこんなに泥だらけだったっけ?」

 すると後ろでシーが声をかけてきた。

 そういえばそうだ。

 特に違和感なく歩いてきたけど、井戸に下りた時点ではこんなにも泥だらけじゃなく、もう少し乾いていた。

 僕は結構長めのブーツを履いているから泥が靴の中まで入ってくることはないんだけど、シーはどうだろう?

 僕はそう思ってシーを振り返った。

 が、シーの靴を確認する前に僕はシーの後ろを見て固まる。

 いつの間にかさっきまで部屋の隅にあった泥の塊がシーの背後に移動していたからだ。

 しかも泥の塊は最初見た時より大きく膨らんでいる!

 僕は咄嗟にシーの手を掴んで目の前の道へと走りこんだ。

「うわぁ!ケイ?!どうしたの?そんなに引っ張ったら・・・こけちゃうよっ!!」

 シーの手を掴み全力で走る僕。

 後ろから事態が分かっていないシーの声がしたが、説明は後だ。

「とにかく走って!」

 僕はそれだけ言うと、走ることだけに専念する。

 ばちゃばちゃと泥の跳ねる音などいろんな音がうるさくて、後ろの状況が分からない。

 しかししばらく走ったところで、道が急に開け、部屋のような場所に出た。

 僕は足に急ブレーキをかけ、立ち止まる。

 勢い余ってぶつかるシーを受け止めながら僕は後ろを振り返った。

 しかし、後ろには何の姿もなく、気づけばさっきまで泥だらけだった地面が、この小部屋のような所に入った場所からただの砂地になっていた。

「こ・・・怖かった。なんか泥のお化けみたいなのが追いかけてきて・・・。」

 シーが肩を上下させながら少し震える声で小さく言った。

 きっと走っている途中で振り返って見てしまったのだろう、あの泥の怪物を。

「もう大丈夫だよ、きっと・・・。」

 僕はシーの背中をぽんぽんと叩きながら言う。

 だがしかし、周りは変わらず薄暗いので油断はできない。

 僕はシーを離すと、新しく大きめの光球を浮かべ、部屋全体を照らしてみる。

 するとこの部屋には、さっき見た泥の塊の代わりのように、葉っぱや草などが隅に積まれているのが見えた。

 まだ水分があり、きちんとした緑色をしているところを見ると、その草は最近取って来たものであろうことが伺える。

「この草は一体なんだろう?」

 僕はしゃがみこみ、積まれた草を掻き分けてみるが、中には何もなく、本当に草が置いてあるだけ。

 僕は溜息をつきながら立ち上がった。

「あれ?これ何だ?」

 そこへ、シーが何かを見つけたような声を出す。

 振り返ると、僕の後ろの壁の前に立つシーの姿があった。

「どした?」

 僕がシーに近寄ると、シーは少し横によける。

 そしてシーがさっきまで立っていて見えなかった壁になにやら窪みができているのが分かった。

 その窪みは僕の腰辺りの高さにあり、少し気づき難い所にある。

「ねぇ、これ指輪かな?」

 僕が窪みを覗き込むと、シーも横からそこを覗く。

 そしてシーが指差したのは、窪みの中にちょこんと置いてある指輪らしきものだった。

「うん、指輪じゃないかな。」

 僕は首を傾げながらも、頷く。

 何故こんなところに指輪が置いてあるんだろう?

 指輪は花のような飾りがついており、シルバーの花びらの中心には黒っぽい石が嵌められている。

 その石の黒はなんだか禍々しいもののような気がして、触ってはいけないような気がした。

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