僕らは一目散に僕たちの拠点となるバーのある町へと帰った。
なんだか後ろからあの茶色いテカテカしたヤツらが、カサカサという音を立てながら追いかけてるんじゃないかという感覚が、ずっとあったからだ。
町の門をくぐったとき、ようやく僕らは安心して歩くことができた。
汗だくで必死の形相で町に駆け込んできた僕らを見て、道行く人たちは不思議そうな顔をして僕らを見ている。
そして僕らはぜーひゅー言いながらようやくバーへと帰った。
そのころにはすでに日は暮れかかっており、バー「ラムザ」という看板がすでに店の前の路上に出ている。
そう、ようやくそのとき気づいたがこのバーはラムザと言う名前らしい。
中に入ると店内はすでに開店準備が完了しており、いつ客がやってきてもいいような状態だった。
そして、僕の先に店の中に入っていたクイットがいきなり大声を出した。
「キトン!!」
なんだなんだと前方を見やると、カウンター前に立って誰かと話している長身の女の子らしき人の姿が。
そしてカウンター奥を見ると、そこにはにこやかに、カウンター前に立つ彼女と話す金髪の女の子の姿が。
この二人はいったい誰だろう?
?マーク飛び交う僕をよそにクイットは走り出し、振り返った女の子に抱きついた。
そしてカウンター前に立っていたその女の子がヴィクマー族だということに気づく。
ヴィクマー族と言うのは人間7.動物3くらいの割合で、動物のような見た目と身体能力を持つ種族。
目の前にいる彼女は猫と人間が掛け合わさったような見た目で、赤茶色の髪の間にオレンジの毛のねこ耳が生えていた。
首と胸の部分を覆うだけの服を着ており、腕とおなかは丸出し。
腰には布がまいてあり、2本のベルトがついている。
オレンジの短いスカートに黄色と白の縞々靴下、スカートの中にはオレンジと赤茶色のこれまた縞々模様の尻尾がたれていた。
そして手と足の先だけはオレンジの毛で覆われ猫のような形になっている。
始めて見るヴィクマー族に僕は若干ビビッていた。
「おい、ケイ。顔、引きつってるぜ。」
そんな僕の顔をにやけ顔でリクが覗き込む。
「う・・・。あ、それで、あの人は誰?」
僕は返す言葉がないので、とりあえず彼女が誰なのか聞いてみる。
今クイットと親しげに話す彼女はいったい何者?
まぁ、この店で働く冒険者の一人ではないかとは思うけどさ。
「あいつはキトン・マーティアル。クイットの同期で、唯一クイットとビシウスの関係を知っているやつだ。」
「え?じゃぁ、話を聞いてみようって言ってたのはあの人?」
さっきダンジョンの中でクイットと、謎の男ビシウス・ウィキッドの関係について何か知っている人に話を聞いてみようとリクと話したけど、その人がまさかこんなにタイミングよく帰ってきてるなんて。
「いやぁ、タイミングばっちりだ。」
リクはそう言うと楽しく談笑するクイット、キトンさん、そしてカウンター奥の女の子のおしゃべりの輪に入っていった。
僕も恐る恐る近づいて4人の話が聞こえるくらいのところでまず見守る。
「よぉ、キトン久しぶりだな!」
「おっ、リクじゃん!リクと会うのも1ヶ月ぶり?」
「おぉ、そーだな。それくらいか。」
「いや、さぁ、大変だったんだよね〜・・・。って、そこの・・・ちょっと個性的な人は誰?」
楽しく談笑を始めたリクとキトンさんであったが、キトンさんの目線が不意に僕を捕らえた。
よく見るとキトンさんの金色に光る目は瞳孔が縦。
さ、さすがヴィクマー族と言うべきか・・・。
というか、個性的な人ってどうなの?
まぁたしかにローブ二枚重ねの上に皮アーマー+胸当てというのはかなり個性的だとは思うけどさ。
「おぅ、こいつは昨日来た新入り!ケイっつーんだ。」
僕がもやもやしていると不意にリクが肩に手を回し、女の子3人の輪へと僕を入れた。
「え、えっと、ケイオス・ニル・ウェグナといいます。ケイと呼んでくれれば・・・。」
僕がおどおどと言うと、キトンさんは笑いながら僕の肩をバシバシと叩いた。
彼女はそんな力を入れてないつもりなんだろうけど、結構堪える。
「そーんな、堅苦しく話さなくたっていいよ!どうせ私より年上か同い戸しくらいみたいだし?そそ、私はキトン・マーティアル!キトンって呼んでくれればいい!」
と言うと彼女まで僕の肩に手を回しワハワハ笑った。
何というかテンション高くノリノリな人である。
「冒険帰りなのに、あんたったら元気ね〜。そこは相変わらずってとこ?」
そこでクイットも笑い、カウンター奥にいる女の子も笑った。
「アレ?ケイッたら何見てんの〜?」
僕がカウンター奥に座る女の子を見ているとクイットが顔を覗き込んできた。
目が半眼である。
べ、別に何も考えてないよ!
ただ誰だろう?って思ってただけさ!
口に出してそう言えばいいものを僕の口は動かない。
代わりに僕の顔は真っ赤になった。
「・・・あ、そっか、ケイはまだフローラのこと紹介してなかったね。」
クイットは急に冷めたような顔をし、少し間を空けて言った。
一瞬何か悪いことでも言ったかと気にしたけど、クイットの表情はすぐにさっきと変わらぬ笑顔に戻っている。
今の何か冷たいような表情は何だったんだ?
「彼女はフローラ・キャーリット。フローラは私たちと違って店番グループね。」
クイットに紹介されフローラさんはとてもかわいらしい笑顔を浮かべ、
「よろしく。フローラって呼んでくださいね。」
と軽く頭を下げた。
か、彼女をエルフらしい性格と言うんだ、クイットよ!!
と心の中で思わず叫んでしまったことは僕だけの秘密だ。
フローラは長い金髪を二つくくりにしていて、その物腰は清楚なお嬢様といった感じ。
少し幼く見える中に大人なところもあって、年は僕と同じくらいだろうか。
で、その大人なところというのが肩の部分が大きく開けた黄緑色の服だ。
胸元にはきれいな宝石のような石がいくつか散りばめられており、腕にも澄んだグリーンの石がついた金の腕輪をしている。
そしてその腕にも服と合わせた黄緑色の何というか長い手袋のようなものをしていた。
もし僕に服についての知識があれば彼女の見た目をとても正確に、なおかつ美しく30字以内でまとめることができたのに、なんていう突拍子もないことを考えてしまう僕がいる。
ちなみに足元のほうはカウンターの影になって見えなかったがきっと緑系統のきれいなスカートをはいているんじゃないかと思う。
「おいおい、ケイちゃんったら顔が赤いぜ?」
リクが茶化し
「おうおう、ほんとだ。まったくわかりやすいなぁ、ケイちゃんはー!」
とキトンが悪乗りする。
「な、なんだよぉ!」
いい反論が思い浮かばず僕は何とかそう言っただけ。
そんな情けない僕を見て周りの人たちがわっと笑った。
フローラは口元を押さえてニコニコと笑っている。
僕は顔が以上に暑くなっていくのを感じた。
そしてふとクイットを見ると彼女と、はしっと目が合う。
がすぐに逸らされた。
あれ・・・なんだか腑に落ちないというか、もやもやするというか・・・。
そんな僕の複雑な心境とはお構いなしにリクがキトンに話を振った。
「あ、そだそだ!おめぇが帰って来てんなら、ブレイズのヤローも帰ってきてんだろ?」
「そうだ!そいつのことすっかり忘れてた。ブレイズなら先に部屋に帰ってるよ!会いに行ってあげれば?」
「おぉ、そうする。よし、んじゃ、ケイも一緒に行こうぜ!女子どもはそこで盛り上がっておいて、俺たちは男3人で積もる話をすっからよ!」
と、リクが勝手に話を決め、僕状況が飲み込めないままはリクに肩に手を回された状態で、えっちらおっちら階段を上っていった。
「ちょ、ちょっと、リク!ブレイズって誰さ?」
いきなり2階へと引っ張っていかれた僕だったけど、さすがにずっと黙ってるわけにも行かない。
「ん?ブレイズってのはな、俺たち冒険者グループの仲間!ま、あって話せばすぐ仲良くなれると思うぜ?」
ようやく肩に回していた手は解かれたけど、今度は腕をつかまれ、僕は相変わらずリクに引っ張られ続けた。
似たようなドアが続く廊下を通り、とある一室の前で止まる。
そしてリクがこんこんと軽くドアをノックした。
「お〜い、ブレイズ、俺・・・」
とまだ言葉を言い終わらない内に扉が勢いよく開いた。
そして現れたのはまたもヴィクマー族。
まぁブレイズという名前から察せられるとおり今度は男だったんだけど。
黒髪の中に茶色の毛の小さな耳。
キトンと同じく目は金色で瞳孔は縦。
黄色い少し変わった服を着ており、肩や腰に赤い帯のようなものを巻いている。
手や足の先も耳と同じ茶色の毛で覆われ、彼にも尻尾は生えていた。
けど彼の尻尾はキトンと違ってかなりふさふさしており、触るとなんとも気持ちよさそう。
「リク!!ひっさしぶりだなぁ!!ん?そっちは?」
「こいつはケイっつーんだ、最近入った新入り!」
「どうも、ケイオス・ニル・ウェグナといいます。ケイと呼んでください。」
「ん!ケイな!俺はブレイズ・バルフ!呼び捨てにしてくれりゃいいから。ま、立ち話もなんだし、中入んな!」
と終止にかにかとブレイズは話し、僕らは彼の部屋へと入った。
部屋は僕の部屋とほとんど変わらないつくりで家具も少なくとても質素だ。
まぁ、冒険者は冒険が仕事なんだから自分の部屋なんてあってもないようなものだから、家具がないのも当然かな。
でも僕の部屋と違うところが一点だけあった。
それは壁に貼られたポスターだ。
そこにはマグマが煮えたぎる中、羽を広げ悠々と飛んでいる赤いドラゴンのイラストが描かれている。
僕がそれに見入っているとブレイズがそのイラストについて教えてくれた。
「そいつはマグナリアスって呼ばれる伝説のドラゴンだ。俺の夢はそいつに会うこと、まぁいまこの世にいるかどうかもわからないようなやつだけどな。」
それを聞いて僕はふんふんとうなずいた。
確かにドラゴンという生き物には冒険者であれば一度は会ってみたいと夢見るものだ。
まぁ、なかなか会えるものじゃないし、会えたにしても相手が悪ければおうちに帰れなくなる。
会ってみたいけど、会いたくない、そんな感じだ。
僕的には確かに冒険を始めたころ、ドラゴンに会えるものなら会いたいと思っていたが、聞くのは嫌なうわさばかりで、会いたいという気は当に失せていた。
ブレイズはポスターを見つめたままの僕の横にどっかと腰を下ろし、まぁ座れよ、と一声かけてくれる。
僕はとりあえずポスターから目線を話しブレイズの横に腰掛けた。
「んで、リク、まず何から話そうか?」
「じゃぁ、まず今回の仕事のことを簡単に聞かせてくれよ。」
リクもブレイズの前にどっかと腰掛け、僕は自動的にブレイズの話を聞けることとなった。
僕はここにいる必要がないように感じていたけど、さっきの女の子連中の中にいるのも気が引けるし、部屋に一人こもるのもアレだから、まぁいいか。
「今回はイルダの武術大会に参加してきたんだ。」
「え?冒険じゃないの?」
イルダと言うのはこの町から北のほうへいった国の名前。
よくは知らないけど武術大会が開かれるくらいだから、魔法より武術に力を入れているんだろう。
にしても大会に参加って、それもここの仕事?
「あぁ、そうか、お前はまだここのスタンスがよくわかってねんだな?ここはな、ほんとに何でもやるんだよ。モンスター退治や洞窟やらダンジョンの探索から始まって、各種大会への出場、身もつ運び、または荷物を輸送する馬車なんかの護衛、はたまた沈没船の引き上げだとか、探し人探し、怪盗を捕まえるなんていう探偵まがいの仕事もあれば、芸人の代わりにステージで芸を披露したり、勉強がわからない子供に勉強教えにいってやるなんていう仕事までありえないくらいここの仕事は幅広い。ま、冒険者は人手がどうしても足りなくなったりでもしない限り子供の勉強を教えるなんて仕事はやんねーけどな。」
それを聞いて僕はわーと目を瞬くばかりだ。
いろんな意味ですごい場所だな、ここはほんとに。
「今も確かシーが隣町の魔術大会に行ってるよな?」
「いや、シーは俺たちより少し先に帰ってきたみたいで、今は疲れて寝てるよ。」
「シー?」
どうやらシーと言うのは人の名前のようだ。
また新しい仲間が登場か。
今日部屋に帰ったら人の名前をみんなメモしていておいたほうがいいかもしれない。
「シーって言うのは魔法の天才!そうだ、明日リクたち休みだろ?シーも今日帰ったばっかだから明日休みだし、ケイ、君は魔法を使うようだからシーに手ほどきを受けたらいいんじゃないか?きっと新しい発見があるとおもうし、それに自分が今まで使っていたのとは一味違う魔法を習得できるかもしれない。」
ブレイズは僕のローブ姿を見ながらそう言った。
「何せ相手は魔法の天才だからな!」
「う、うん・・・。」
僕は二人に対して気のない返事を返すくらいしかできなかった。
僕はいまだに魔法使いか、戦士、どちらを取るか迷っている。
けど魔法を新たに魔法を習得するとなれば、魔法使いの道を選ぶことになるだろうし。
僕としてはもう少し悩んでいたい。
が二人は僕のそんな気持ちなんて知らないわけで。
「よし、んじゃシーのやつも夕飯のときには出てくるだろうし、そん時に聞いてみるか。」
「んだな!」
と勝手に話が進んでいる。
まぁいいんだけどさ。
二人は僕のことを思って行動してくれているわけだし。
「あ、そうだ、んで大会、どうだったんだよ?」
「あぁ、もちろん優勝だ!」
「お!すげぇな!で、商品は何もらえたんだ?」
ん!これはさっきの話よりは俄然興味がある。
どんな規模で歴史はあるのかないのかとかわからないことだらけの大会だけど、優勝したとなればそれなりの商品が出ているはずだ。
いったい何をもらったんだろう?
ブレイズは近くに投げ出してあったリュックサックをあさると白い布に包まれた何かを取り出した。
それを取り出すブレイズの顔はとてもうれしそう。
これは相当いいものもらったんだ!
そしてブレイズは、握りこぶしより一回り大きいくらいの布に包まれた何かを片手に乗せ、ゆっくりと布をめくっていった。
僕とリクは興味津々でその様子を覗き込む。
いったいどんなお宝だろう?
宝玉かな?
それとも何かの加護を受けた装飾品?
そして、ブレイズの手に最終的に乗っかっていたそれは、
「・・・悪魔?」
そう、僕とリクがほぼ同時につぶやいたそれだった。
1ページ(全11ページ)