イフ

イフ     葛根

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 十二月は私にとって良い思い出と悪い思い出が共存する月だ。

寒いのは苦手だ。どちらかというと暑い時期の方が好きである。

望《のぞみ》との出会いも夏だった。

 私の初恋の相手は兄だった。六つ年上の兄は家族である私から見ても美形であると思う。

事実、ずいぶんと女性に言い寄られていた。

かくゆう私も思春期に近づくにつれ徐々に兄に好意を寄せていた。

兄は歳の離れた私をかわいがってくれたがそれは家族に対するものであり、異性としては扱ってくれなかった。そんな折り、夏休みに早く起きた私は寝ている兄の唇を奪った。もちろん気付かれないように細心の注意を払った。

私のファーストキスは兄だった。

私が高校に入学を決めたのを境に兄は前から付き合っていた彼女と同棲を始めた。まだ大学生なのに私の両親も相手の両親も賛成だった。

唯一私が反対だった。たまにアポなしで訪れてはよく兄と彼女の邪魔をしたものだ。

 当然といっては語弊があるが、兄が卒業する間際、兄と彼女は籍を入れた。就職も決まっていて踏ん切りがついたのか、卒業を前に学生結婚をしてしまった。

兄は新卒なのに既婚者ということで就職先の会社でもがんばれと言われたらしい。

私の初恋の相手は既婚者となってしまったのだ。

結婚式での兄夫婦はとても幸せそうだった。両親は泣いていた。うれし泣きか、息子が立派になった感動なのかわからなかったが、私も泣いていた。好きな相手を取られたからである。

結婚式が終わり偶然にも私と兄が二人きりになった。

誰もいない空間だった。何を思ったか、兄が昔話を始めた。

お前、俺が高校性の時だったか、寝ているときにキスしたろ。アレ、俺のファーストキスだったんだぜ。

ドキリとした。同時に嬉しくもあった。続けて兄は話した。

まあ、難しい年頃だったし、しょうがないけど、お前もいい人見つけろよ。

 そう言われて、その時の私は兄を諦めた。好きだったアイドルが結婚してしまった時のショックよりもずっと辛かった。

冗談気味に私は兄よりもいい男なんていないといって困らせてやった。

 新学期が始まっても兄の結婚という人生でももっと後にくる行事を終えてしまった私は不抜けた状態だった。クラスメイトも変わっていたが一ヶ月経っても顔と名前が一致しないくらいに他人との交流をしていなかった。

そんな私をどう思ったのか、席替えをしたばかりの私の隣人が声をかけてくれた。これが望《のぞみ》との初めての出会いだった。

とりとめのない話をしていたと思う。気付いたら昼食も一緒に取っていた。放課後になって分かったことだったが、望《のぞみ》は水泳部だった。

その為か、短めに整えられた髪は少し茶色がかっていた。中性的な顔と明るい性格で社交的だったので、男女に人気があった。

 五月も後半に差し掛かった時、担任に呼び出された。理由は入部する部活をさっさと決めろという催促であった。この学校は帰宅部というものがなく、必ずどこかの部に所属しなければならない。

どうしたものかと悩んでいたがあっさりと望《のぞみ》の薦めで水泳部に決まった。

ちなみに後から知ったことだったが、文芸部が帰宅部として機能していたのだ。

ついつい、望《のぞみ》のスタイルが良くなる。健康に最適などという甘い誘いに乗ってしまったのだ。

望《のぞみ》は確かにスタイルがいい。同じ生き物か疑ってしまう。

体育の着替えでマジマジと観察する私をどう思ったのか、照れた表情をしていたのが印象的だった。

そう、男の私でも興奮してしまう程に男の望《のぞみ》は可愛かった。

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