あなた猫ですよね

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 おかしな夢を見た。

どんなことをしたのか、詳細は覚えていないけれど……

目覚めた時、天井の模様が違うことに気付いた。

 ぼんやりまどろみながら夢の余韻を確かめていると、ベットの脇から声がかかる。

「おはようございます。」

落ち着いた女性の声がして、僕は半身を起した。

 病院の個室のような完璧に整理された部屋。

僕のベットは窓際に置かれ、付き添いの人が座る椅子がベットの横に備え付けられている。

その椅子に知らない女性が腰かけ、僕を見つめて魅力的にほほ笑んだ。

「あなた猫ですよね?」

僕は反射的に頷く。

頷いた後、どうして僕が猫なのか思い出せずに戸惑う。

女性は何もかもお見通しと言わんばかりに目配せをすると

「混乱してしまう心中はお察ししますわ。

大丈夫。すぐ慣れますから。

私はあなたの担当のミケと申します。

これからあなたの猫ライフをサポートしますから、お見知りおきを。」

ミケは僕に名刺を差し出すと立ちあがって

「あなたが猫に目覚めたことを上に報告してまいりますわ。

猫としての登録手続きが必要ですからね…そうそう。

猫コードネームを決めなければなりませんから、ご自分で好きなお名前を考えておいてください。」

サイドテーブルに置いていた書類を手に部屋から出て行った。

タマのお尻から生えている尻尾の優雅な動きに新鮮な驚きを覚えながら、僕はタマを見送った。

 僕は自分がパジャマのままだったことを思い出し、とりあえず身支度を整えようと壁際に備え付けられたロッカーを開けてみる。

中には色とりどりの素敵な服がつまっていて目移りしてしまう。

どの服に着替えようかと物色していると、深いグレーの服が目にとまった。

試しに着替えてみると、まるで自分の皮膚だったかのようにフィットする。

テーブルに水差しが置いてあったので水を汲み、喉を潤す。

椅子に座ってこれからのことについて考えようとするけれど、いったい何をしたらいいのか分からない。

あ。

そういえばさっき見た夢の中で、僕は誰かに「猫になりたい。」と言ったような気がする。

「夢が現実に叶ってしまったのかな。」

確かに夢が叶ったのかもしれない。

しかし、夢の中の思いなんて目覚めてしまえばおかしなものばかりだ。

僕は頭を抱えて机に突っ伏した。

 しばらくして部屋の扉がノックされ、ミケが入ってきた。

ミケは身軽にテーブルの向かいの椅子に腰かけて僕の様子を見る。

「その服、とっても似合ってますよ。」

ミステリアスにウインクすると、机の上に書類を広げた。

「こちらが猫登録用紙です。

ここにあなたの猫名を記入してもらいます。」

 僕は用紙を手に取り、仔細に調べた。

白い用紙には『猫登録票』と書かれており「わたくし       は、猫になります。」と真中に一文だけ書かれている。

空白部分に猫名を書かなければならないようだ。

僕はシンプル過ぎる用紙を見ながら首をひねった。

「あの、これだけで猫になれるんですか?」

ミケは自信に満ちた表情で頷き

「これであなたは猫になれますとも。」と請け合った。

「え。でもあの…

僕、本当は猫になりたいのかどうか分かりません。

親切にしていただいてありがたいのですが、家に帰って考え直したいんです。」

ミケは驚いたように目を細めると

「猫に登録せずにその格好で外を歩くのは危険ですよ。

あなたは既に今、服を着替えています。

それに、ここの水も飲んでしまいました。

よく気をつけてご自分の姿を確認されたほうがよろしいですわ。

ここから出て行くのはあなたのご勝手ですが、まずはきちんと頭を整理なさってはいかが?」

ミケは少し怒ったように言い放ちカツカツとハイヒールの音を響かせながら部屋を出て行った。

 僕は茫然とミケの言葉の意味を考えていたが、やがてのろのろと席を立つとロッカーの扉を開いて鏡を見た。

鏡にはシャム猫の姿が写って僕の目を不安げに覗き込んでいる。

濃いグレーの艶やかな毛皮に身を包んでしなやかな体つきの立派な雄猫だ。

僕は溜息を一つつくと机に戻り、書類にサインした。

不思議なことに猫名は鏡を見た時に頭にふんわりと浮かんだ。

「わたくしジョルジュは猫になります。」

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