ハーメルンの笛を探している、とその男は云った。
ハーメルンですか、と、私は応える。
男は、ゆらりと、しかしせわしげに首を振った。
違います。ハーメルンの笛吹き男、知っているでしょう?
そう云って、ひたと、私の眼を見つめる。視線を
ハーメルンの笛吹き男は、独逸で実際にあった集団失踪事件を
その話の中で、不思議な旅人は笛を吹く。その音でねずみを操り、子どもを操る。
あの男の吹いた笛を、あなたは持っていますね。
説明書きも正札もないのに、一目で言い当てる。得体の知れない不気味さに、私の背筋を、汗が伝った。
ええ、うちは古物商を営んでいます。ですから、各地の色々な品が、様々な過去を伴って集まってきます。ですが、そのような品は、
時間がないのです。お願いします、あれは、私の、唯一の成功品なんです。
男は身を乗り出し、
周波数を変えれば、どんな生き物だって呼ぶことができる。ハーメルンで行われたように、人に対して使われれば、いや、それ以外のどんな生き物にだって、悪用されれば大変なことになる。それに、何よりあれは、私の実験の唯一とも言える成果なのです。
一体、貴方は何なのですか。わけのわからないことばかり仰るのなら、お引き取り願いたい。
素晴らしい誇大妄想だ、と、笑っても良かっただろう。そうするべきだったのかも知れない。
しかし私は、凍りついたように男を凝視した。長い時間をかけてようやく、口の端を吊り上げる。
もう一度、作ればいいではありませんか。否そもそも、あの笛を貴方が作ったとするならば、失礼ながら、随分とお若く見える。どれだけ年齢を偽れば、其れが実現するというのでしょう。
男は頭を
貴方たちは、いつも其れだ! 何故信じては
ふつりと。
男の声が途切れた。
男の姿が、掻き消えた。
たった一人残された私は、呆然として、そうして、男の姿を求めて店内を見回した。人が隠れられるような場所は、どこにもない。
ややあって、私は、そっと引き出しを引っ張った。小振りの笛を、取り出す。
息を吹き込むと、ぴいと音が鳴った。
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